領域概要
本領域の目的
生物は、発生や環境変化に応答して、体内構造の一部を破壊(スクラップ)するとともに新たな構造を創造(ビルド)することにより機能再編を実現します。とくに脳神経系では、神経細胞と神経細胞の繋ぎ目である数ミクロン単位のシナプスから、その数万倍に相当する脳領野内や領野を越えた神経ネットワークに至る、ミクロからマクロレベルのスケールにおいてシームレスに破壊と創造が制御されます。そのため、細胞単位では細胞死による除去だけではなく、神経突起やシナプスなど「生きたままの細胞」の一部だけを除去・改変する過程が顕著にみられます。本領域では、脳神経系において特徴的にみられる創造的破壊(スクラップ&ビルド)現象を研究対象として、スクラップ&ビルドを担う分子実体と連動メカニズムを徹底的に解明し、更に明らかにした分子実体や制御基盤を手がかりとして、神経回路スクラップ&ビルドと脳機能や病態との連関を個体レベルで解明することを目指します。
本領域の内容
本領域では、神経系におけるスクラップ&ビルドが、ミクロレベルからマクロレベル、発達期から成熟後において、どのような分子機構によって時空間的に制御され神経回路の機能発現を担っているのかを明らかにすることを目的とします。そのために、1)スクラップ&ビルド現象の基盤をなす細胞コンパートメント構築と除去を担う分子実体とネットワーク制御基盤を徹底的に同定し、2)種々のモデル動物を駆使した研究から得られる情報を比較・統合することによって共通原理と特殊原理を抽出します。さらに、3)明らかになった分子実体や制御メカニズムを手がかりとして、スクラップ&ビルド現象が、どのような高次脳機能獲得や病態に関連するのかを具体的に解明することを目指します。
期待される成果と意義
脳神経系のように細胞死を伴わないスクラップ&ビルド現象は、最近、血管組織などの多細胞組織においても観察されており、多細胞組織の機能再編を担う普遍的なメカニズムである可能性が考えられます。したがって本新学術領域の成果は神経科学の範疇に留まらず、細胞生物学、発生生物学、血管生物学、免疫学などの生物学の多様な研究分野に大きなインパクトを与えることが期待されます。また、神経回路スクラップ&ビルドの原理解明のために開発する諸技術・資源もさまざまな領域に波及可能であると予想します。加えて、神経回路スクラップ&ビルドの異常は、発達障害や精神疾患の一因となることが示唆されており、本研究領域における基礎神経科学研究は、これらの疾患の病因・病態の解明、治療戦略の開発などに貢献しうる学術的基盤や実験系を提供することが期待されます。